インタビュー紹介
「子や孫たちとも安心してだんらんを」
リタイア夫婦の2人暮らしを支える家
東京都大田区

安心感と開放感と
「1階にいても月が見えるってのが気持ち良いんです」
東京都大田区の阿保浩一さん(70)は満足げだ。近隣との距離が近い住宅密集地に立つ木造2階建て。だが、2階の床を2畳分ほどくりぬいた吹き抜けから、空が望める。
1970年頃に両親が建てた実家を改修し、2023年末から妻雅代さん(68)と暮らし始めた。6畳や4畳半など細かく区切っていた壁をできるだけ減らした。
「年をとっていくことを考えて、動きやすく生活できるようにって。そして、安心感。自分と妻、何より遊びに来る孫たちの命を守るためです」

地震は「いずれ、いつか」
以前から、両親が亡くなった後の実家に手を入れて暮らそうと考えていた。幼なじみで地元工務店を経営する一級建築士、望月陽さん(70)に相談すると、自治体の助成を活用した耐震改修を勧められた。耐震診断では大規模地震で「倒壊する可能性が高い」との結果だった。
阿保さんに被災経験はないものの、「もう少し備えておけば良かった」と言う被災者の後悔が報じられるたび、胸を打たれた。特に2011年の東日本大震災以降は、水や非常食などを常備し、定期的に入れ替えている。首都直下地震が切迫する状況に、「地震はいずれ、いつかは起きる」との考えだ。
リフォーム代の他、耐震改修には約330万円かかった。内壁を減らした分、外壁を厚くしたり、屋根を軽くしたり。「安く済ますんだったら、台所や水回りだけという手もあるけど、安心して暮らせないと意味がない」と振り返る。

妻と年老いても
年に数回訪ねてくる子や孫たちは、2階のフリースペースに布団を敷いて寝る。キャンプ用のテーブルを囲んで食事をし、孫はデッキでプール遊び。どこにいても声が届く、家族のだんらんがそこにはある。
夫婦2人の暮らしに合わせた造りにもこだわった。段差を減らし、トイレや脱衣所は区切らない。リビングでも寝られ、回遊できる。「若い頃には考えもしなかった造りだけど、すごく使いやすい」
1階居室には今、実家で使っていた仏壇が昔と同じ場所にある。あめ色に染まったヒノキの柱や、家紋入りの透かし彫りの欄間もそのまま。飾られた祖父母や両親の写真は、夫婦の元を訪れる子や孫たちの様子を見守っているようだ。
(※年齢や肩書などは2025年7月7日の取材時点のものです)