インタビュー紹介
きしむ自宅に揺れる茶わん
90歳を超えて耐震改修で得た静けさ
大分県大分市
ずっと気になっていた家のきしみ
もう10年以上前からだろうか。気づくと、ふすまは滑りが悪くなり、ドアも開けにくくなっていた。地震のたび、棚の茶わんがカチャカチャと音を立て、家全体にきしみが響く。「この家はもたんだろうな…」
大分市の大久保安喜(やすき)さん(92)は日向灘を震源とする地震が起きるたび、「早く何とかせんと」と古くなってきた自宅のことが気がかりだった。地震の際にシェルターになる「耐震ベッド」の資料を取り寄せ、耐震診断・改修の業者に連絡したのは3年ほど前。1973年に建てた木造一部2階建ての自宅で、妻・寿美(すみ)さんとの暮らしを守りたい一心だった。
妻に先立たれても
それから状況はめまぐるしく変わった。
寿美さんがまもなく脳梗塞(こうそく)で入院。帰宅することなく、昨年3月に帰らぬ人となった。享年92歳。ずっと待っていた耐震改修の順番が回ってきたのは、それから半年近く経ってから。
耐震診断の結果は、大地震で「倒壊する可能性が高い」。予想していた通りだった。業者からいくつかの改修プランが示され、自分の年齢や手持ちの資金を考えて最も手頃な総額180万円の計画(うち補助金60万円)を選択。8カ所の内壁や柱を補強するなどの計画で、危険度を少しでも和らげたいという段階的改修の位置づけだ。
実はこの頃、次女夫婦は独り身となった大久保さんを気にかけ、自宅を売却して実家で同居しようと考えていた。
改修工事に合わせ、娘夫婦はタンスを並べていた納戸をリフォーム。12畳ほどの居室を整えた。洗面所とトイレの段差解消に動線の改良、窓の断熱工事なども終え、3人暮らしが始まった。張り替えたクロスの白さだろうか、家が明るくなった感じがした。
静かな夜に
その後も市内で震度4を観測する地震があったが、大久保さんは「確かに音がしない。きしみが聞こえない」。地震の揺れを感じることなく、ベッドにいても安心して寝ていられるのだという。
地元は南海トラフ巨大地震の被害が想定される地域でもある。高齢であっても改修を望んだのは、「自分が建てた家をできるだけ残したい」というこだわりがあったからだけではなかった。「いつまで健康でいられるか分からないけど、地震で命を落とすのはちょっと納得がいかないからねえ」
【取材にご協力いただいた皆様】
・大久保安喜さん
・株式会社カワノ会長、川野康雄さん
(※年齢や肩書などは2025年7月30日の取材時点のものです)